緑内障は、眼球内部の圧力である「眼圧」が高値となることで、眼球から脳に情報を伝える役目を担う神経細胞が死滅し、視野障害や視力低下を生じる病気です。実は40歳以上では20人に1人が緑内障と言われていますが、初期では症状に乏しく、また進行も緩徐であるため自分ではなかなか気付くことができません。そのため末期となるまで発見が遅れ、場合によっては失明に至ることもあります。しかしながら近年、緑内障の診断と治療は大きく進歩し、失明のリスクを減らすことができるようになりました。
緑内障で失われた視野は残念ながら回復させることはできませんが、眼圧を下げることで進行を遅らせることができ、それが治療となります。とは言え、眼圧を何でも最大限に下げればいいというわけではありません。眼圧を下降させればさせるほど、点眼であればその副作用、手術であればその合併症リスクが高くなり、治療の負担が重くなることを意味します。緑内障治療の最終的な目標は、患者様が生涯にわたってなるべく不自由が出ないよう進行をコントロールして行くことです。そのため、緑内障のタイプ、眼圧値、年齢、ライフスタイル、など様々な要素を考慮して、治療の負担と眼圧下降を適切にバランスすることが重要です。まさにオーダーメイド治療と言えます。
まず大切なのが病態の把握ですが、当科では一般的な眼圧検査や視野検査に加えて、最新の光干渉断層計(OCT) による視神経乳頭三次元画像解析や、3D写真による視神経乳頭の記録、また炎症性疾患の場合ではレーザーフレア値測定など、客観性の高い検査データを積極的に活用することで診断の正確性を高めています。電子カルテで統合されるこれらの所見は、眼圧管理方針の決定や術後管理を容易にします。また各医師間での情報の共有もしやすくなるため、当科では難症例に対するカンファレンスも活発です。
導き出された方針に沿って眼圧下降治療を行いますが、これは点眼治療と手術治療が主となります。緑内障の点眼治療は近年大きく進歩し、種類も増え、その組合せによって多くの緑内障のタイプに対して治療が可能となりました。大学病院である当院はその多くを採用しており、それぞれの患者様に最適な処方ができるよう、検査データを常にフィードバックしながら薬種を選択しています。
点眼でコントロール不能となった場合は緑内障手術を選択することになります。可能ならば避けたいところですが、必要が生じた場合は適切に施行するべきであり、原理や効果、リスクを十分にご説明しご理解を頂いています。手術は一部のインプラント手術を初め、一般的な線維柱帯切除術や流出路再建術などほぼ全ての術式を施行することができます。
その既存の診療を行った上で、大学病院は新しい技術の開拓も使命となります。当科は特に新しい手術術式についての検討をしています。過去には、冷却レーザー虹彩切開術や、線維柱帯切開術に対する新しい追加術式、などが生み出されてきました。未来に対し、緑内障治療の負担を少しでも軽減して患者様の利益に叶うよう、これからも努力を続けて参ります。