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活性型プロテインC(APC:Activated Protein C)の虚血網膜に対する効果検討

糖尿病網膜症や網膜静脈閉塞症に代表される網膜虚血性疾患は我が国における失明の主要原因となっています。現時点では、虚血網膜を間引くことで酸素の需給バランスを取る網膜光凝固が唯一の治療法でありますが、破壊的治療であり、根治療法ではありません。

我々は活性型プロテインC(APC: Activated Protein C)の虚血網膜に対する効果を検討した結果、網膜細胞保護効果を見出しました(Invest Ophthalmol Vis Sci. 52:987, 2011)。そして、高度虚血型網膜中心静脈閉塞症を対象としたAPC眼内投与の医師主導型臨床試験の結果、広範囲の無灌流領域が再灌流する現象が、約6割の症例で見られました(図1、2)。広範囲の網膜血行再建に成功した世界初の報告となりました(JAMA Ophthalmol.132:361, 2014)が、再灌流の詳細なメカニズムは不明です

図1.APC眼内投与により広範囲の無灌流域が再灌流した虚血型網膜中心静脈閉塞症の蛍光眼底造影。

図2.APC眼内投与を施行した虚血型網膜中心静脈閉塞症症例

投与前(A)、および投与後1ヶ月(B)の網膜断層撮影。APC投与により網膜浮腫が完全に吸収されています。蛍光眼底造影(C-E)では、投与前(C)に見られた無灌流領域(矢印)が投与後3ヶ月(D)では面積比で58%減少し、投与後10か月(E)では完全に再灌流していました。

APCは本来、血液凝固制御因子であり、血栓形成抑制・線溶促進作用があります(図3)が、細胞保護作用・神経保護作用も有することが報告されています(Nat Med 9:338, 2003)。臨床で得られた再灌流には数カ月以上の時間がかかっていることから、血栓溶解に伴う短時間の再灌流作用ではなく、APCの持つ細胞保護効果や2次的な効果などにより1)新たな血管が形成されたり、あるいは、2)一旦消失した既存血管が再疎通した可能性が考えられます(図4)。臨床例での眼底造影写真からは、新たに形成された血管網と既存血管が吻合して灌流したのではないかと考えられる像が得られていますので、1)および2)の両方が緩徐に進行しているのではないかと言う仮説を立て、そのプロセスを、培養細胞/組織、および、動物実験で捉えることを目指します。


図3.凝固カスケードとAPCの作用

図4.網膜血行再建に関与する可能性のある細胞

我々は、再灌流のメカニズムを培養細胞/組織を用いて解明し、有効な投与条件の開発や、全身の虚血性疾患への応用を目指しています。本研究は、広範囲の網膜再灌流に初めて成功したAPCによる薬物治療のメカニズムを解明する事を目指しており、現在難治とされている虚血性網膜疾患、ひいては、全身の虚血性疾患に対する根治療法を確立できる可能性があります。網膜症以外の糖尿病合併症や脳梗塞、心筋梗塞などにまで応用できれば、その社会的意義はきわめて大きいと考えています。

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